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宝石買取の性質

十二日の金曜日、P氏はトゥルノン通りの私邸で、D氏とグッチのクリエイティヴ・ディレクター、T氏を食事に招待する。
Z氏も来ていた。 W氏もいた。
紅一点のH氏もいた。 いつものことだ。
T氏は素晴らしく優雅なものごしで、長い時聞かけて壁に飾ってある近代美術の絵画を眺めている。 そしておもむろに席に着くと、その場のみんなを魅了した。
みんなの気持ちが通じあった。 D氏は、この日、P氏の鋭い青い目に魅了されたと言い、仕事仲間に対する礼儀正しい態度にも感心したと言った。

A氏との二度の会談で感じた貴族的な高飛車な冷たさとはまったく違う。 P氏相手だと、自分が獲物になっている気がしない。
D氏は狩りにもさまざまな手法があることをおそらく忘れているのだ。 テーブルで、フランス人たちは、魅入られたように、機械のような正確さで動くグッチのメカニズムの話を聞いていた。
市場調査、制作、広報、販売促進、そして宣伝が、まるでなめらかにすべるように動くバレエのように組みこまれ、極度に集中化され、驚くほど効率的に動く。 この食事会で、P氏は、五年間でこのイタリア・ブランドを復活させ、変化させ、発展させたこの二人に対してすなおに尊敬の念をいだいたのだった。
この二人が、真の多種高級ブランドをもっグループ企業を作る文化的能力があるかどうかについての疑念は、もう少しあとになって生じる。 二人の招待客はじつによくしゃべる。
少し誇張もする。 要求しようとしている額を正当化するためだ。
たしかにF氏は魅了されている。 それでもD氏が穏やかな声でその金額を口にしたときは、もう少しで咳きこむところだった。
PPR がグッチ株の四〇パーセントを取得したいなら、一八〇億フラン出すように、と言ったのだ。 「それはあまりにも高すぎる」とW氏が抗議する。
「これがグッチです」とD氏がつねに自信たっぷりに応じる。 交渉が始まった。

三〇億ドル(一〇億フラン)に対して資本の四〇パーセント。 単純計算で一株あたり七五ドル相当になる。
しかし当時、グッチの株価は六〇ドルだった。 P氏が値切る。
彼は六二ドルから始め、徐々に上げていった。 しかし、D氏はまったく揺るがない。
三〇億ドルでいったいグッチは何をしたいのか。 当然の疑問だ。
しかしこれはあまり重要なことではない。 これは法律上の計算、そして資本主義的な計算によってはじき出された金額なのだ。
A氏の力を弱め、その三四パーセントの持株の割合を下げるためには、絶対に四〇パーセント必要だ。 だがそれは不可能だ。

というのも、D氏が七五ドルの株価にこだわり、一二〇億ドル以下では絶対に譲らないと言っているからだ。 また、資本金全体が公開買付けにされたわけではないので、P氏は二〇〇四年まではグッチの監査会に参加できない。
スタンドステイル、「据え置き」ということだ。 P氏のすべきことは単純だ。
彼は比較的低い額を支払う。 しかしこの買い物は一生続くことになる。
それなら他の手はないだろうか。 待つか。
突っこむか。 考えどころだ。
何に関しても警戒心の強いW氏が、一つの条件を出す。 絶対に、この取引は三月十九日、グッチがLVMHとの話し合いを再開するとされている日以前に決められること。
そうでなければ、すべてが水の泡だとW氏は注意をうながす。 彼はPPRが、グッチの切り札としてB氏・グループとの交渉に利用されるのは絶対にいやなのだ。
D氏などに手玉にとられてなるものか。 一方、P氏はすでに未来を夢見ている。
欲望が彼に「行け」とささやく。 こんなチャンスを逃す手はない、と。

P氏はこの業界に入ってから、長い経験を積んでいて、このような機会が今後決して現われないかもしれないということを知っている。 彼自身もうあまり若くはない。
自分の仕事の美学の基準がすべて集められる。 戦略的な本能。
動くことになる巨大な額。 それに応じた利益の可能性。
アクロバチックな経済の仕掛け。 ほどよい程度の危険性。
そして最後に、世界第三の高級品グループ企業ができあがる。 というのも、数ヵ月前からP氏は、I氏の買収を交渉していた。
そしてこの取引は、A氏の目の前をかすめて成功しかかっているのだ。 しかしそのためには、六三億フランを出すという条件がついている。
P氏の論理は単純明快だ。 高級品の世界への入口としてグッチは悪くない。

グッチ・プラス・S社ならもっといい。 食事会のあと、P氏はF氏とD氏に、S社を買収してグッチに売り渡すつもりだと打ち明けた。
P氏は二人の反応が忘れられない。 そう、彼らはよだれを垂らさんばかりでした。
入場券は純金でできていた。 だがP氏は信じがたいほどの利益を生み出す壬国の扉を開けるのだ。
おそらくA氏は怒り狂って真っ青になることだろう。 それもP氏にとって悪い気がしない。
たしかに、S氏は彼ほど熱くなっていない。 しかしそれは彼の性格だ。
PPRの社長は素晴らしい経営者だが、征服者ではない。 どっちみちW氏にはどうしょうもない。
〈A社〉はPPRの筆頭株主で、五五パーセントをもっている。 P氏が「一〇億払おう」と言った。

W氏は引きさがった。 エンプロイー・ストック・オーナーシップとはフラン一従業員持株制度。
従業員に対して自社株式の購入を奨励するアメリカの制度である。 F氏のゴーサインが出されるとすぐに、D氏は大量の増資を準備しはじめた。
発行数はおよそ四〇〇〇万株。 PPRに渡すためのものだ。
これがフランスなら、こんなことは絶対にできない。 法律で、株の三分の一以上を取得したら、すぐに資本全体の公開買付けをおこなわなくてはならないからだ。
同じように、このような行為はアメリカでも考えられない。 比較的健全な原則的規定によって、上場企業の経営者は資本の二〇パーセント以上発行することが禁じられているからだ。
それは幹部たちの一派が外部の投資家に企業の経営権を売り渡すことがないようにという配慮からだ。 しかし、グッチはオランダの法律のもとで経営されている企業だ。
「毒薬」に関することが規約に書いてないのなら、自分で作ってもいい。 たとえば準備金の発行というかたちで。
それなら、D氏が人に感動を与えるほどの思い入れであれほどまでに主張してきたフィレンツェのブランドの独立性という聖域は忘れられたのだろうか。 考えを変えないのは愚か者だけだ。
そしてグッチの立場から見れば、P氏との提携は、A氏が考えているものとはまったく異質のものだ。 まずPPRはライバルではない。
バッグを作ってはいないのだ。 そしてF氏とS氏のもう一つの貴重な長所は、この二人が高級品業界にはまったく無知だということで、そのために二人を自由にしておいてくれるだろうということだ。
PPRは二ヵ月前のLVMHと違って、ただ株を買いあさることに専念していたわけではない。 T氏にとって、増資という行為を通して、彼らはグッチのために一〇億フランを提供して、グッチが将来どこかを吸収するときの資金として使えるようにしている。

一言で言えば、グッチの多種ブランド企業として成長しようとする思惑を、陰ながら支援しているのだ。 この企業が本当に一八〇億フランを必要としているのか、こんな大金を使う能力があるのかと疑う向きもあるだろう。


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